LIVE PAINTING
“PETRICHOR”
Artist
Kanako Sasaki
2024.09.25
佐々木香菜子の真骨頂、
NEWoMan新宿の壁面アート
9月6日、アーティスト佐々木香菜子さんが、新たにオープンするhueLe Museum NEWoMan新宿店でアート作品のライブ創作に臨んだ。金曜の昼間、巨大なターミナル駅に隣接する人気のファッションビルには、秋アイテムのショッピングに訪れた人たちや海外からのツーリストたちなどたくさんの人で溢れていた。そんな中で行われた今回のライブペインティング。店の壁面をカンバスに、凛とした表情と流れるような身のこなしで、香菜子さんは“ぶっつけ本番”の創作を進めていく。
“何のイベント?”と足を止める人やスマホ撮影を始める人など常にギャラリーがいる状態で約3時間、ものすごい集中力で作品と向き合った後、全貌を表したのは佐々木香菜子作品を象徴する“青”が印象的な壁面アート。タイトルは“PETRICHOR(ペトリコール)”。
「PETRICHORって、雨が降ったときに地面や草花から立ち上がってくる香気のことを意味する言葉です。香りって人の感情に大きな変化を起こしたり、新しい気分のきっかけになったりしますよね。hueLe Museumが降らせる“感性の雫”を受けとっていただくことで、お客様の心に何か新しい発見やその人自身の世界が変化するようなイメージをテーマにした作品です。あとhueLe Museumの「ファッション×フラワー×アート」というコンセプトにもピッタリなテーマだなって!」(佐々木香菜子さん)
飛び散る色のかけらは、
新しく起こる変化の象徴
ショップの白い壁に鮮やかに登場した作品は、青を基調にさまざまな色を配したエネルギーに満ちた抽象画。作品に向き合っていると、鉱石の断面図ように見えたり、勢いよく流れる水のようにも、燃え盛る宇宙の炎のようにも見える。
「今回のPETRICHORというテーマから、“香り”というのが創作の重要なキーワードになっています。香りっていうと、ふわっとした表現や漂う柔らかさをイメージされるかたも多いと思います。ただ、今回は香りそのものではなく、その香りによって自分の世界がガラッと変わる体験を抽象画として表現したかった。香りという、目には見えない繊細なものによって生まれる現実世界の変化のインパクトを描きたかったんです」(香菜子さん)
香りは目には見えないけれど、私たちの感性を刺激し、気分を変化させ、記憶を鮮やかに残すという大きな力を持っている。時に、縮こまった心を動かし、前へ進む力をくれる。
「青の中に少しだけグリーンだったりオレンジだったりを描きこんでいます。小さい面積だけれど、気持ちが沸き立つような、チェンジするきっかけになってくれるような“香りの粒”みたいな要素として、ポイントとなる色を散らしました」
ライブぺイントという創作方法からも、この作品独自のエネルギーが生まれている。
「ライブペインティングは、私にとっては本当に楽しくて刺激的なものなんです。見られている緊張感や不安はまったくなくて、逆に、偶然その場に居合わせた人たち見られる刺激や興奮で、自分でも想像していなかったクリティティブが生まれたりするんですよね」
NEWoMan新宿という場のパワーも、この作品に宿っているに違いない。
作品の根底にあるのは、
「心を動かしてもらうこと」
今回のコラボレーション以外にも注目を集めているのが、STUMBLYで毎シーズン展開している香菜子さんによるテキスタイルデザインアイテムだ。香菜子さんのグラフィックアートを活かしたドレスやブラウスは、センスよくアートを纏えるアイテムとしてコレクターもいるほど。24AWは、チェック柄をベースにした“ART CHECK”シリーズが登場している。
「今季はテーマとしてチェック柄をリクエストされたんですけど、何て言うんでしょう、チェック柄ってもうすでに歴史があって正統で、みんな想像できるものじゃないですか。その中で私ができることって何だろうって、かなり悩みました。
で、表現したのが、“チェックからはみ出したチェック”。線からはみ出したり、膨らんだり、途切れたり。
正統とはひと味違うチェック柄を纏うことで、着る人の気持ちがちょっと大胆になったり、新しい感性や考え方に出会えたり。そんな心の動きをイメージしながらデザインしました。今回のお洋服デザインも、グラフィックをとても効果的に使っていただいていて、すごくうれしいんです」
作品としての抽象画を創るときも、グラフィックアートやテキスタイルデザインに関わるときも、香菜子さんの根底には作品を創る上でのブレない思いがあるという。
「すべての作品を通して伝えたいのは、『思考を止めない』というテーマ。これは昔から変わらないです。作品を見て、心を動かしてもらうことを大事に、作品を描いています。
感情を振り子のように動かせば動かすほど、それは生きることの大きなエネルギーになると思うし、生きることを豊かにすることだと私は信じています。それがたとえ辛いことやネガティブな心の動きであっても、楽しいことやポジティブなことへ向かう一つの大きなきっかけになるから」
刺激や発見を楽しみながら、臆せず、心を動かしていくこと。そして、自分にポジティブな変化を起こしていくこと。香菜子さんの作品から伝わってくる、未来にワクワクできるようなバイブスは、そんな思いから生まれているのだ。
今後はアート体験を
提供できるイベントも
実は香菜子さん、3ヶ月前に初めてのお子さんを出産し、今は育児に奮闘中なんだそう。
「思考を止めない、心を動かすっていうのは、創作者としての自分にとってもとても大事なことなんですが、出産というのは、私にとってはそれこそ究極の感動体験。ただ、産前産後は肉体的にも物理的にも創作活動はどうしてもセーブすることに。だからこそよけいに、“描きたい”“表現したい”というエネルギーが自分の中で今、MAXに強くなってますね。(笑)
今後は、新作を国内外で発表していきたいというのはもちろんあります。また、アートに接する機会が少ない人たちや子供たちに、ライブパフォーマンスやワークショップを通じて表現することの楽しさをもっと提供できたら、という気持ちも強くなっています。アートを体験することで感情を動かす楽しさやきっかけを発見してもらえたらな、って。そんなイベントを通じて、首都圏だけでなく、全国の地域そして世界で、アートで生まれる感動を伝えていけたらとイメージを膨らませています」
佐々木香菜子
Kanako Sasaki
アーティスト
1983年、宮城県仙台市生まれ。
ダイナミックかつ繊細な表現力で数々の作品を手がける。
広告ビジュアルやアパレルブランド・企業とのコラボレーションも多数。
ライブパフォーマンスでも作品を制作発表している。
佐々木香菜子の特徴的な青色は多彩な色と光を内包し、日常生活の中にある欲望、希望、情熱、衝動、喜び、もどかしさなど、人間の内に秘めた性質を浮き彫りにする。その作品の数々は鑑賞者に自身の心の奥底にある感情に触れるような感覚を呼び起こす。
2024年11月に阪急メンズ大阪 Contemporary Art Galleryでの個展開催、12月には米国マイアミにて毎年開催されるMiami Art Weekの一翼を担うアートフェア“Art Miami”に出展を予定している。
Videographer : SHUN AOKI
Editor : HIROMI KATAYAMA
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